母子家庭のひとり親世帯への父親の養育費の未払いは、子どもの人生,命にすら係わる喫緊の問題です。我が国の離婚した父親は、7割が養育費未払いである実態があります。
令和3年度国の統計※1によると、養育費を受領する母子家庭の割合は28.1%です。 養育費とネット検索すれば「逃げ得」「損をしない」といった男性目線の上位ワードが上がってきます。その一方、母子家庭の貧困率(相対的貧困,以降貧困)は5割に達し、その背景に養育費の未払いが大きく関与している事が推察できます。それでは、7割の離婚した父親にとって「逃げ得」とされる養育費未払いは、社会にとって何を意味するのでしょうか。
養育費未払いの影響を踏まえる前に、何故、母子家庭の半分が相対的貧困にあるのかをデータから紐解きます。
母子家庭の開始年齢は、末子の平均年齢4.6歳、母親の平均年齢34.4歳。
母親の平均就労年収は236万円。
母子家庭の平均就労年収は、父子家庭(496 万)の2分の1以下になります。
就労年収の低さの背景には、女性の4割に及ぶ非正規雇用、派遣社員といった、男女の雇用機会不均等の現実があるのです。
それでは実際に、母子家庭の5割が直面する貧困にはどのような影響があるのでしょうか。
内閣府※2 によると、貧困家庭の子どもは、自身の成績について「下の方」と認識する意識が約2倍にのぼり、部活動への参加はわずか約2分の1です。つまり子どもの経済格差は、教育格差,体験格差となるのです。
実際に、民間支援機関の調査※3では、年収300万以下の世帯では3人に1人が学校以外の体験・活動をした経験の無い事がわかっています。
レジャー,旅行,習い事の経験の無い子どもは、学びの機会、芸術に触れる機会が圧倒的に無いのです。成績も振るわず、経済的に部活動もままならない子どもが学校以外の体験機会を逸した時、彼らの活躍の場所はどこにあるのでしょうか。
一体どこで達成感や自己効力感を得るのでしょうか。
母親に「お金が無いの」と言われた子どもは次第に諦めてしまいます。
諦めた子どもには、自分が「何かをすれば状況が変わり人生が好転する」感覚が育ちません。そして我が国の貧困は相対的貧困です。
「自分だけ」というこの貧困は、子どもの希望や意欲を奪い、自尊心の低下という内面の問題をもたらします。子どもらしい体験の機会を奪われた5割の母子家庭の子ども達が社会に居場所を見つける事は、簡単な事ではありません。
更には年収300万円以下の親も同じように学校以外の体験を持たずに育った事が解っています。教育機会に加え、体験機会の欠如は、貧困の連鎖を生むのです。月3-6万円の養育費が子どもの人生に大きく影響するのです。
2020年度の人口10万人当たりの自殺件数は、新型コロナウィルス感染拡大前5年平均に比べて男性で17%、女性で31%増加しました。中でも20代女性、子ども、若者の自殺率が増加したのです。
自殺の要因の特定は容易ではありません。
しかしその件数は失業率と連動して増える事がわかっています。
コロナ渦に経済的に打撃を負ったであろう非正規雇用の母子家庭。九州大学の香田将英講師などのチームの研究報告によると、自死する女性の悩みとして「子育ての悩み」が上がっており、母子家庭の一番の困りごとが、約5割の女性が「家計」と回答してます。養育費の未払い、それは命に係わる喫緊の社会課題なのです。
[su_box title=”参考文献” box_color=”#21CF6F”]
※1厚生労働省の「令和3年度 全国ひとり親世帯等調査」
※2内閣府発表『令和3年 子供の生活状況調査の分析 報告書』
※3チャンス・フォー・チルドレン https://cfc.or.jp/
[/su_box]